かつては大陸全土を手中に収めるほどの勢力を誇っていたオークたちは、バイウム皇帝率いるエルモアデン帝国により北部の黒い森に追いやられてしまう。その後、バイウム皇帝の後継者の座をめぐり1000年以上続いたエルモアデン帝国が崩壊すると、オークたちは再び軍隊を結成してエルモア北部の征服に成功する。
しかし、オークたちも一枚岩ではなかった。同族間の階級差が争いの火種となったクーデターによって、種族の存続すら危ぶまれる状態になっていたのだ。
アインハザードが火の精霊を吹き込んで創りだした
オークは、疲れを知らない強靭な肉体と力を
与えられています。炎が力の源と考えている彼らは、
炎の神パアグリオを信仰しています。
かつては大陸全土を手中に収めるほどの勢力を誇っていたオークたちは、バイウム皇帝率いるエルモアデン帝国により北部の黒い森に追いやられてしまう。その後、バイウム皇帝の後継者の座をめぐり1000年以上続いたエルモアデン帝国が崩壊すると、オークたちは再び軍隊を結成してエルモア北部の征服に成功する。
しかし、オークたちも一枚岩ではなかった。同族間の階級差が争いの火種となったクーデターによって、種族の存続すら危ぶまれる状態になっていたのだ。
これは現在のオーク衰退の変遷をたどる物語である。世界の創造以降、多くの物語や歴史書、有史以前の伝承などでオークのことが語られてきたが、これから語るのは君たちが知る事実とは全く異なるものだ。私はいつか真実が世に広まる日が来ると信じている。
神話の時代、アインハザードとグランカインはあらゆるものが混ざり合った球体から力を分かち生まれ出でた。このとき砕けた球体の破片は空や大地、水などに姿を変えた。また、球体の精神も砕け散りさまざまな動植物を生むこととなった。この精神から生まれた生き物の中で最も優れたものが巨人であった。後にアインハザードとグランカインは結ばれ多くの子を授かり、最初の5人の子供たちには地上を支配する力が与えられた。アインハザードは創造の神であった。自分の精神から体を作り出し、子供たちの力を借りてその体に命を吹き込んだ。1番上の息子であるパアグリオには火の精神が吹き込まれた。これがオーク族の起源である。
アインハザードとグランカインは、強靭な肉体と高い知性を持つ巨人をすべての生き物の長とした。こうして巨人は大陸を支配し繁栄することとなったのだが、次第に自分たちの絶大な力に酔いしれた巨人たちは傲慢になり、とうとう神々を退けてその地位を奪おうとした。しかし、これが神々の逆鱗に触れ滅亡への道をたどることとなった。
巨人の欺瞞によって地上の生き物に失望したアインハザードは、地上での出来事に関与しなくなった。そしてグランカインもまた地上に姿を現さないと決めた。神々の時代はこうして終焉を迎えるのだった。
すべての生命体の上に君臨していた巨人たちが姿を消すと、大陸は大きな混乱に陥った。巨人によって統制され続け、ただひたすら巨人のために生きてきた彼らは、自らの力で生きていかなければならないときを迎えたのだ。彼らは荒野に一人投げ出された子供のように怯え、なす術もなくただ呆然としていた。さらに、星の槌が大陸を叩いて起こった大災害は、事態を立て直せないほど、一層深刻なものにした。多くの者が大災害と混乱の渦中に死んでいった。彼らはひたすら神に救いを求めたが、神々は決して応じなかった。
最初にこの状況を治めるために立ち上がった種族はエルフだった。彼らは巨人に統治されていた時代にも、政治を担っていた種族だった。彼らは互いに異なる種族をひとつにまとめ上げ、うまく治めているように見えた。しかし時が経つにつれ、エルフは巨人のようには大陸を治める能力がないということがあきらかになり始めた頃、最初にエルフに反旗を翻したのは、オークだった。
「エルフが我々より強いのか?エルフに我々を統治する資格があるのか?我々よりも弱き者が生意気にも我々の上に君臨することを、決して許してはならない!」
オークの軍事力は、実に恐るべきものだった。闘争の中に生き、死を迎えることを誇りとするオークに対し、平和な暮らしに慣れ、それを望むエルフは対抗することができなかった。瞬く間に大陸のほとんどがオークの占領下に入り、エルフは大陸の片隅に追いやられた。そこでエルフはドワーフに助けを求めた。彼らの莫大な資金と優れた武器があれば、オークとの戦争に勝利できると判断したのだ。
「地の種族よ、我々に力を貸してくれないか。あの凶暴なオークの一団が力のままに我々を追い詰めるのだ。さあ、早く我々と共にあの連中を断罪しよう。」
だがドワーフはエルフの要請を冷たく断った。彼らの目には、大勢はすでにオークに傾いていると映ったのだ。常に実利を追求するドワーフが、弱者に手を差し伸べることはあり得ないことだった。エルフは怒りに打ち震えたが、なす術はなかった。
エルフは、次に風の種族アルテイアに助けを求めることにした。彼らの情報力と空中での攻撃力は十分な戦力となり、オークを打ち破ることが出来ると考えた。エルフの使節団は大陸の果てまで行き、彼らに助けを求めた。
「風の種族よ、我々を助けたまえ。かの野蛮なオークの一団が、力で我々を追い詰めている。我々と共に、あの連中に自らの愚かさを知らしめしたまえ。」
しかしアルテイアは、それまでと同じく大陸の情勢や戦争などにはまったく関心がなかった。彼らは、どちらの味方にもつかないことを決め、さらに深い奥地へ隠れてしまった。エルフは絶望した。
「なんということだ、誰も我々を助けようとしないとは!我々はこのまま終わりを迎えるというのか?あの穢らわしいオークが大陸を支配し、すべての栄光を奪い去るというのか!」
ある日、何者かがエルフの王の前に現れひれ伏した。エルフを統べる王が注意深く見たところ、彼はヒューマンの王だった。彼は、頭の上に枝で編んだ王冠のようなものをかぶっていた。
「何事だ、卑しいヒューマンの王よ。お前たちまでもが、我々を愚弄しに来たと言うのか?」
エルフの王は嘆き叫んだ。すると、ヒューマンの王は地面に額がつくほど頭を垂れ、こう述べた。
「賢明なるエルフの王よ。我々は、取るに足らない存在ではありますが、お役に立てるかと思い参ったのです。」
この言葉にエルフは大いに喜んだ。たとえ愚かで非力なヒューマンといえども、彼らは非常に人数が多く、戦争の際には何らかの形で役に立つかもしれないと考えたのだ。
「なんと殊勝なことか、ヒューマンの王よ。お前たちはたとえ脆弱な存在であっても、我々のために進んでその命を捧げるという忠誠心は見上げたものだ。この戦争を勝利に導けば、お前たちには我がエルフに次ぐ地位をくれてやろう。」
その言葉にヒューマンの王は大いに感激し、何度も何度もひれ伏した。しかし、彼は再びゆっくりと頭を上げ、こう言った。
「限りなく尊いエルフの王よ。エルフの誉れ高き勝利のために、是非お許しいただきたいことがございます。我々はあまりにも非力です。我々の歯はオークの体にかすり傷一つさえもつけることができず、我々の爪は彼らの筋肉にはね返されるだけです。ですから、切にお願い申し上げます。どうか我々にあの連中に立ち向かえるだけの力をお与えください。我々に魔法をお教えください。」
ヒューマンの唐突な提案に、エルフの王はあきれ果てて言葉もでず、甚だしい怒りを覚えた。彼らは、すぐさまヒューマンの王を一握りの灰にしてしまおうとした。しかしエルフの王、ベオラは理性を持って冷静に考え、彼らの主張を聞き入れることにした。ヒューマンがあまりにも無力であったため、力を合わせてもオークに勝てるかは疑問であり、ヒューマンの足りない頭で魔法を習得したところで、大きな脅威にはならないと考えたのだ。
そしてこの決定は、最終的に彼女の命を奪うことになるのだった。ヒューマンは、エルフが予想していた以上に早く魔法を習得した。それだけではなく、常に労働にいそしみ、仲間同士で戦って鍛錬した彼らの肉体は、オークほどではないが相当に強靭なものだった。また、彼らは手先も器用で、武器を扱う手さばきも見事なものだった。何よりも、ヒューマンはその数の多さを誇っていた。ヒューマンの軍隊は短期間に急成長を遂げることとなったのだ。
ヒューマンとエルフの連合軍は、徐々にオークを制圧し始めた。やがて、それまでオーク側について彼らのために武器や要塞を作っていたドワーフが、ヒューマンとエルフの側にもつくようになった。ヒューマンは、ドワーフが作った精巧なアーマーと鋭い武器を使いこなし、一層強力になった。もはやエルフの軍隊がなくとも、ヒューマンはオークの軍隊を撃退できるまでに成長していた。
このように状況が一変すると、エルフは戦争に勝利を収めながらも常に不安を抱くようになった。日に日にヒューマンの力が大きくなり、統制できないほど強力になるのを感じた。それでも、エルフは最後まで慢心していた。まさか、最も卑しく矮小なヒューマンが反逆を企んでいるとは思いもしなかったのだ。そのうえオークとの戦争の勝利が自分たちの目前にあり、他のことを考える余裕もなかった。ヒューマンは次第に高位魔法を習得していき、ついに数十年におよぶ戦争はエルフ・ヒューマン連合軍の勝利に終わった。オークは屈辱的な平和条約を結ばされ、自分たちの本拠地であるエルモア北部に追いやられたのだった。
「だがエルフよ。これは君たちの勝利ではなく、あの汚らわしいヒューマンの勝利だ。君たちは、自ら育てたあの怪物たちを統率できると思っているのか?」
ヘストゥイの族長の吐き捨てるような言葉のとおり、エルフはヒューマンという新しい脅威に立ち向かわなければならなかった。しかし、既にエルフは長い戦争に疲れ果てていた。その反面、魔法という力を手にしたヒューマンは、初めて胸の高鳴りを覚えていた。そしてついにヒューマンはエルフに対して反旗を翻したのだった。
ヒューマンはかなり前から周到かつ秘密裏に謀反を企ててきたに違いない。エルフは、このとき初めて飼い犬に手をかまれたことに気付き悲鳴を上げたが、既に後の祭りだった。魔法と魔法がぶつかり合う大きな戦いが起こり、再び大陸は揺れた。しかし、エルフは既に、新しく台頭したヒューマンの勢力を防ぎきるだけの力を持っていなかった。エルフは、ヒューマンの大規模な攻勢に次第に押されはじめ、ついには自分たちの本拠地であるエルフの森まで後退した。そしてヒューマンとの最後の決戦に臨むこととなったのだ。この森はエルフの魔力が最も強く作用する場所だったため、エルフの森での戦闘を足がかりに勝利を得ようとしたのだ。
エルフはダンジョンを抜けて身を潜め、ヒューマンに立ち向かった。だが、およそ3カ月におよぶ戦いの末に勝者となったのは、ヒューマンだった。エルフの自尊心も、エルフの森の力も、優れた魔力も、とめどなく押し寄せるヒューマンの軍隊をしのぎきることはできなかったのだ。ついに、エルフは甚大な被害を負って森の中へ逃げていった。ヒューマンも、それ以上後を追うことはできなかった。エルフは森の全域に強力な結界を張り、他の種族の侵入を防いだのだった。
こうしてヒューマンが大陸の覇者となった。
長い戦争の過程で、ヒューマンたちは原始的な国家を形成し始めていた。大小さまざまな国家が生まれ、統合しては再び分裂を繰り返す戦乱の時代が訪れたのだった。しかし、混乱の時代はそう長くは続かなかった。大陸ではエルモアデン帝国が生まれ目覚しい発展を遂げ、海を挟んだグレシア地域ではペリオス帝国が建設された。
エルモアデンの黄金期は、エルモアデンの誕生から約千年後のバイウム皇帝の時代だった。バイウムは強力なカリスマで帝国史上最強の軍隊を作る。この軍隊は、エルモア北部において非常に大きな勢力を占めていたオークを、現在のオーク王国と呼ばれる黒い森にまで追いやった。しかし、強大すぎる力を持ってしまった故か、バイウムは晩年には征服戦争に興味を失い、永遠の命を求めて神々が住まう神界へと至るために国力を総動員して塔を建て始めた。神々はこれを許しはしなかった。神々の逆鱗に触れたバイウムは塔の頂上に幽閉され、塔の建設は中断されてしまう。
突然、姿を消した皇帝の後継者の座をめぐり、皇族の間に熾烈な争いが起きた。この争いに貴族までもが加わり、ついにエルモアデン全体が内戦に陥ってしまった。ただでさえ塔の建設で国力が弱まっていたところに大規模な内戦が繰り広げられると、帝国はこれ以上持ちこたえることができなかった。ついに、千年以上続いてきた絢爛たるエルモアデン帝国は、わずか20年のうちに崩壊してしまうのだった。
エルモアデンの崩壊はペリオスの存続の小さな助力となったが、グレシア南部に広まった伝染病と北部を襲った冷害が原因となり、やがてペリオスは崩壊する。エルモアデンに続きペリオスも歴史の奥に消えてしまったのだ。
その後、大陸は混乱に包まれた。まるで大災害後を彷彿とさせる暗黒の時代だった。貴族たちは次々と王を名乗り始め自分たちの王国を建て、ときにはヒューマン以外の他種族に領土を明け渡しもした。特にオークは軍隊を結成し、再び大陸進出に立ち上がるのだった。彼らの軍隊は変わらず強力で、すぐにエルモア北部を征服した。しかし、ノーブルオークと下級オークの間に生まれた軋轢が彼らの勢力を弱めてしまう。
永きに渡って続いたダークエルフとの戦争により、エルフにはこの状況を利用する余裕がなかった。また、ドワーフはオークの軍隊に迫られ、志を掲げる機会さえも得られなかった。
結局、アデンとエルモア、そしてグレシアが大陸の主導権を争うという危ういバランスの上に、不安定な平和が成り立つ現在まで、ヒューマンが大陸の覇権を握ることとなった。
その頃、オークたちは枯れた土地である不滅の高原で、パアグリオから授かった火の精神を高原全体に吹き込み定住するようになった。かつては大陸全土を手中に収めるほどの勢力を誇ったオークは、機会を伺いながら力を蓄えてきたが、同族間のいさかいが彼らの足かせとなっていた。
一方、アデンとグレシアが不可侵条約を結んだため、非常に不安定な状況に置かれたエルモア王国は、力の均衡を崩す突破口を必要としていた。このような情勢の中でエルモアの北部に位置するオークの存在は、潜在的な脅威であると同時に新たな機会になりうると考えられていた。高原の奥深くにひっそりと斥候隊を送りこみ不滅の高原を手に入れる機会を伺っていた。
しかし、オーク側も同族間の軋轢が大きくなり必ずしも一枚岩ではなかった。下級オークは、貧民層のような暮らしを余儀なくされ、ノーブルオークとの階級の差が争いの火種となった。ノーブルオークによる戦利品の分配をめぐって、下級オークたちの不満が一気に爆発しクーデターへと発展した。この事件により、オークは再び表舞台へ戻るチャンスを逃すこととなった。また、ノーブルオーク内でも種族の存続に関して保守派とリベラル派に分かれて対立していた。種族の存続すら危ぶまれる状態になっていたのだ。
下級オークの呪術師バランカを中心としたクーデター勢力の拡大によって、不滅の高原は不穏な空気に包まれていった。しかし、英雄は混乱と混沌の中から産声を上げる。リベラル派のノーブルオークから新たな物語が始まろうとしていた。